「ロルの定理」を利用した授業による生徒の数学観の変容に関する実践例
〜「数学基礎」を見据えた数学史を活用した授業〜

筑波大学大学院修士課程教育研究科  小澤 真尚

(要約)

2003年度から高等学校数学科で「数学基礎」が新しく実施される。その内容の一つとして「数学と人間の活動」、具体的には数学史を扱うことが提案されている。しかし、一口に数学史といっても内容は多岐にわたっているので、どのような内容をどのような教材として生徒に提示し授業を行うのが適しているのかという実践例は教育の現場ですぐに役立てるためにも非常に重要であり必要である。そこで本研究では、実践例の一つとして、まだ扱われていないであろう数学者ミシェール・ロル(Michel Rolle,16521719)にスポットを当てて、できるだけ訳者の解釈を入れないようにするために「ロルの定理」の一次文献を扱ったオリジナルの教材を作成し授業を行った。その結果、生徒にどのような数学観の変容が見られたかについて調査した。

対象として高校2年生18名に(整関数の微分に関して未習であったが、授業のはじめと1時間目終了後の課題により補った。)「ロルの定理」を扱った授業を行い、授業前と授業後のアンケート、及び授業後の感想から生徒の反応を見て、生徒の数学観の変容を調査した。

原典であるロルの著作「Traite d’algebre」は入手が困難だったため、それをまとめた「A source book in mathematics(David Eugene Smith,1929)の中の「ROLLE’S THEOREM」(pp253260)を利用した。

数学の歴史において17世紀から18世紀にかけて “微分”や“無限小”という考え方が出現したが、中でも「ロルの定理」は今では解析学の多くの本に載せられているほど微分の重要な定理として挙げられ、今日の数学に与えた影響は非常に大きい。しかし面白いことにヴァリニョンからライプニッツへの手紙によるとロルが最初は“微分”や“無限小”という考え方に批判的だったことがわかる。では、いったい何をきっかけにして批判的な立場であったロルが自分の名前が付くような微分の定理を発見することになったのだろうか。生徒たちが、このことについて自分なりに考え、発言し、他の生徒と意見を交換することで、ロルの心情が変化していくその人間臭さや、数学の定理が誕生するまでの背景等を感じ取り、追体験することを授業の目標とした。

その結果、授業前のアンケートからは数学と人間とのかかわりに関する記述はまったく見られなかったのに対して、授業後には生徒全体のうちの約半数が今回の授業によって「今まで知らなかったことを知ることができて面白かった。」「数学の歴史にふれることができて楽しかった。」「昔からこのようなことがあったことに驚いた、不思議だ。」と数学と人間とのかかわりについて驚き、感動して、それぞれに意見、感想を持ったのがわかった。よって「ロルの定理」を利用した授業が生徒の数学観の変容を促すことが示された。

引用・参考文献

David Eugene Smith 1929).「A source book in mathematicsDover Publicationspp253260

Herbert Meschkowski1964).「Ways of thought of great mathematiciansHolden-Daypp5759

・ボイヤー(1984).「数学の歴史4」朝倉書店.pp6466

Robyn V. Young1998Notable mathematiciansGalepp423424