要約

筑波大学大学院教育研究科  小林 真人


研究題目
 球の体積の公式指導に関する授業研究―アルキメデス「方法」を題材として

1、はじめに
 国立研究所の基礎学力調査によると、高校生の正答率が「知識・技能」については、80%であるのに対して、「理解・思考・態度」については、50%であるという結果が出ている。この要因には、生徒が暗記に陥りがちであることが挙げられる。
 このような生徒の現状に対して、球の公式に関して数学史の教材化、授業研究を行った。

2、研究目的・研究方法
 研究目的
  暗記した公式に対して疑問を持ち、体積を導き出すための単なる道具として用いてきた公式についての理解を深 めることによる、生徒たちの変容をみる。
 下位目的
  @球の体積の公式について、単に暗記することに終わらず、その意味、発見過程を理解することの必要性を感じることができるかどうかをみる。
  Aアルキメデスの発見方法を追体験することにより、数学に対する新しい考えを得ることができるか考察する。
 研究方法
  上記の目的を達成できたかを、アルキメデスの「方法」を題材とした授業を行い、生徒の反応やアンケートの結果 から考察する。

3、アルキメデス「方法」の教材化
 「ユークリッド原論」は、ギリシアにおける論証数学として、最初に完成されたものであるが、これはユークリッドが先人たちの多くの研究成果を学問体系としてまとめたものである。
アルキメデスの活躍した時代(紀元前3世紀ごろ)は、平面図形に関しては正方形に等積変形し、直接比較する方法が基本であった。それ以前の球の体積に関する定理は、「ユークリッド原論」の中に記されている、球の体積同士を比較したものである。
 アルキメデスの導き出した定理は、球の体積を円錐の体積と比較したものであった。しかし、そのままアルキメデスの方法を示しても、πを用いた公式が既習の生徒たちにとっては、なぜこのような方法をとったのかを解釈することはできない。そのため、「ユークリッド原論」も教材として取り入れた。ユークリッド原論の中に示されている命題を通して、与えられた図形を既知のものに帰着させて考えるという発想を生徒がもち、アルキメデスの発見方法を生徒がより解釈しやすくなると考えたからである。
 アルキメデスの発見方法とは、「方法」に示されているものであり、平面に重さがあると考えて、理想化された天秤につるし、釣り合いを利用して求めたものであると考えることができる。「方法」からは、アルキメデスは、立体の不可分量が面であると考えていたということが読み取れる。しかし、不可分量の考えも、平面に重さがあるという考えもギリシア時代は認められていなかった。しかし、アルキメデスは「方法」に示した発見方法に関して、確証を得ていたと考えられる。これは、「方法」の序文にもあたる『エラトステネス宛ての手紙』からも読み取ることができる。

4、授業概要
報告書、テキスト、スライド等を参照。

5、結果・考察 
 アンケートの結果から、生徒たちは、公式をそのまま覚えるのではなく、その公式がどのようなことを表しているのかを考えることが重要であると感じたようである。また、公式の導かれた過程を考えることで公式に対する理解が深まった。
 また、日頃、代数的に処理してしまうことが多い現状に対して、ギリシア時代の数学を題材として用いたことにより、幾何的に処理していくことを通して、生徒は数学に対する新たな発想を持つことができた。
 以上より、目的は達成することができたといえる。


参考文献
 ・筑波大学数学教育研究室(2001). 中学校・高等学校数学科教育課程開発に関する研究(8)
 ・アルキメデス(1990). アルキメデス方法  佐藤徹訳・解説 東海大学出版会
 


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