“音階の形成過程に潜む数学”を題材にした教材の開発

―他教科との関連からの数学の文化的視野の覚醒―

筑波大学大学院修士課程教育研究科 佐藤暁子

1.はじめに

まず、筆者は、平成11年高等学校学習指導要領の各科目第1節、数学基礎の目標にある「社会生活において数学が果たす役割」と「興味・関心」の2点に筆者は注目した。

他教科とのつながりを考えた教材は数多く存在する。しかし、現代での教科間のつながりという視点はあっても数学の考え方が活かされている歴史的事例を題材にしたものは少ない。IEA(国際教育到達度評価学会)の第三回国際数学・理科教育調査の報告(1999)によると、理数離れの進行があることが伺える。しかし、数学が人間の営みの中で活かされてきたことを学ぶ中で、もっと身近に感じ数学を学ぶ意義を確かめてほしいという思いがある。そこで、礒田(2001)の解釈学的な立場から、一次文献の解釈により数学が使われていた当時の時代背景を吟味していくことのできる教材を開発した。なお、本事例では、古代ギリシア数学と音楽のつながりから現代の楽器に生きる数学までをまとめて教材化した「History of Mathematics Education」第8.4.2.Music scalesの事例を参考にした。

このような立場から、数学が生徒の身近なところで活かされている歴史的事実を追体験することが有効か否か、またそこから数学を学ぶ価値を見出すことができるか否かを明らかにしていった。その上で、このような教材が生徒の数学観を変容させるのに有効かどうか明らかにしていった。


2.研究目的・研究方法

研究目的
礒田
(2001)の立場から、音楽史の中で数学が活かされてきた事実を、一次文献の解釈を通して追体験をすることにより、生徒は数学が日常生活と密接に関連していることを捉えられるか、そこから数学を学ぶ価値を見い出すことができるか否かを明らかにする。

研究方法
上記の目的を達成するために、事前事後アンケート、授業テキストと授業を記録したビデオに基づき考察した。


3.教材の開発

実際に授業では、ピュタゴラス学派の音楽に対する考え方や平均律が作られていく過程の理解を図るために、できる限り原典を用いた。まず、ピュタゴラス学派の逸話については、ボエティウス著「音楽教程」およびTL ヒース著(1978、平田寛 大沼正則 菊池俊彦訳)「復刻版 ギリシア数学史」を、ギリシア時代の音の調和についてはアリストテレス著(1968、戸塚七郎訳)「問題集」を用いた。また、平均律に関してはGiogeffo Zarlino著「Le Harmonic Institutio」に載せてある図を、その中で使われていた器械MESOLABIOについての理解を図るためにThomas Ivor著「Selections, illustrating the History of Greek Mathematics Vol.1」を用いた。


参考・引用文献

【1】T.L.ヒース(1978、平田寛 大沼正則 菊池俊彦訳)「復刻版 ギリシア数学史」共立出版

【2】アリストテレス(1968、戸塚七郎訳)「問題集」岩波書店

【3】Giogeffo Zarlino1558)「Le Institutioni Harmoniche

【4】ボエティウス著(1989Friedlein訳)「De institutione musicaYale University Press

【5】ジェームス・マッキノン編(1996、上尾信也監訳)「西洋音楽の曙」音楽之友社

【6】文部省 「高等学校学習指導要領解説 数学編理数編」平成1112

【7】礒田正美(2001)「数学的活動論、その解釈学的展開;人間の営みを構想する数学教育学へのパースペクティブ」第34回日本数学教育学会論文発表会論文集、pp.223-228
【8】礒田正美・土田知之(2001)「異文化体験を通じての数学の文化的視野の覚醒;数学的活動の新たなパースペクティブ」第25回日本科学教育学会年会論文集、pp.497-498

【9】クルトザックス著(1970、皆川達夫/柿木吾郎共訳)「音楽の起源」音楽之友社

【10】Michel Rodriguez2000Historical support for particular subject History of Mathematics Education§8.4.2.b“Music scales”,John Fauvel and Jan van MaanenThe ICMI Study

【11】大蔵康義(1999)「音と音楽の基礎知識」国書刊行会

【12】F.V.ハント(1984、平松幸三訳)「音の科学文化史:ピュタゴラスからニュートンまで」海青社

参考URL

【13】http://www.museo.unimo.it/theatrum/macchine/141sch.html

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