要約

筑波大学教育研究科 野沢和弘,小林徹也

本研究題目

地図を題材にした数学の授業実践に関する一考察−天井画作図器を用いて−

授業実施時期
2004年12月

学習指導要領との関連
中学校3年 「図形の相似」
高等学校 数学T 「図形と計量」
高等学校 数学U 「いろいろな関数」「微分・積分」
高等学校 数学A 「平面図形」

既習事項
三角形の相似

指導可能学年
高校2年生〜

1.はじめに

 
本研究は,原典『Le due regole della prospettiva practica』に登場する「天井画作図器」という道具を題材として、その道具を用いながら地図の学習につなげ、三角関数や微分の有用性を具現化できるかどうか考察した。

2.研究目的・研究方法
研究目的
 ヴィニョーラの原典の解釈,その原典の中で紹介されている天井画作図器(道具)の使用による異文化体験ならびに,地図と三角関数等の数学との関連の学習から,興味関心を一層喚起し,数学観の変容が授業内で達成することができるかを考察する。目的を達成のため,以下の課題を設定する。

課題1:ヴィニョーラの原典の解釈を通じての異文化体験を取り入れた授業の中で,天井画作図器を操作する数学的活動を行なうことにより,人の営みとして数学を捉え,数学の有用性を感じることができたか。
課題2:透視円筒図法とメルカトル図法の比較を行い数学的な違いを理解することで,地図に数学が果たしている役割を理解することができたか。
課題3:課題1,課題2を通して,興味関心を持って活動し,数学が生活に関わっていることの理解できたか。また,数学観の変容を促すことができたか。

研究方法
 原典とそれにちなんだ道具を用いたオリジナルの教材を作り,授業研究を行う。そして,授業前後のアンケート,ビデオによる授業記録を基に,課題が達成されたかどうかを判断する。

3.「天井画作図器」の教材化
 原典としてJiacomo Barozzi da Vignola(1507− 1573)の『Le due regole  della prospettivapractica』を用いた。ヴィニョーラは,この原典の中で,透視画について述べている。その原典の中に載せられた天井に絵画を描く作図器を授業で扱うことにする。この道具を使うことで,平面状の絵画を基にして,天井に絵画を描くことができる。この道具を使って描かれた円筒状の絵画は,ある地点から眺めると,平面状の一枚の絵画と見ることができる。

4.「天井画作図器」の数学的解説
 報告書を参照。

5.天井画作図器と地図を題材とした授業の概要
報告書,スライド,テキスト等を参照。

6.結果と考察
課題1
 事後アンケートの授業を受けて,数学を学ぶ上で、昔の人の考え方を知ることは、大切であるかとの問いからは,42人の生徒のうち,34人の生徒がとても「とても大切で」もしくは「大切」を選んだ。多くの生徒が,異文化体験により,数学の有用性を実感した結果となった。生徒が原典の解釈と道具を操作する数学的活動を行なうことにより,異文化を体験し,数学を人の営みとして捉えることで感銘を受け,数学の有用性を感じることができた。
課題2
 事前アンケートでは,中学校社会科での知識である5千分の1,1万分の1などの縮尺という数学の関係性の知識しか有していなかったが,事後アンケートの結果では,地図と数学の関係を多面的に理解する姿や,考えたことのなかった地図の背景に数学の果たす役割の大きさを理解する姿から,今まで考えたことのなかった地図の背景に三角関数等の数学の果たす役割の大きさを理解したことが確認できる。
課題3 
 アンケート結果から,『
数学が身近ないろいろなところに使われているのが分かった。』や『数学は,「生活」するために意味のあることだと分かった。』などといった意見から,今までの授業とは視点の異なった数学の授業を実践したことで,新鮮にかつ興味関心を持って授業に取り組み,数学が生活に関わることや数学が身近なもので,私たちの生活に役立っていることを理解できた。以上のことから,数学観の変容を促すことができたと考えられる。


参考文献

Jiacomo Barozzi da Vignola ; editor, I. Danti(1987).Le due regole della prospettiva practica.Archival Facsimiles  Limited(原著出版1583)
・礒田正美(2001).異文化体験からみた数学の文化的視野の覚醒に関する一考察:隠れた文化としての数学観の変容を求めて.筑波数学教育研究.20.39−48

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