「Napierによる対数の発見」の学習による
数学的意義理解の一考察
筑波大学大学院修士課程教育研究科
寒河江 雄一郎
はじめに
平成15年度から施行される高等学校学習指導要領には、数学Uの内容に「三角関数、指数関数および対数関数について理解し、関数についての理解を深め、それらを具体的な事象の考察に活用できるようにする」との記述がある。筆者は、現在の授業では対数関数が指数関数の逆演算として定義されているために、対数について抽象的なイメージばかりを持っている生徒が多いのではないかと考える。筆者は、生徒の対数に対する具体的なイメージへの広がりが必要なのではないかと考える。
数学史において、対数は17世紀はじめにNapierによって考え出された。指数が18世紀半ばに考え出されたことからもわかるように、Napierは対数を現在の指導内容のように指数の逆演算として定義してはいない。Napierは積から和への変換に着目し、等差数列と等比数列との対応づけによって対数の定義を行っている。そこで筆者は、「Napierによる対数の発見」に関する原典解釈が、指数の逆演算として作られた生徒の対数の文化を発展させる機会を提供するものであると考える。Napierが対数を考え出した後、Gunterがものさしに対数の目盛りを入れた“Gunter’s
scale”を発明した。また、Oughtredがそれを改良し、計算尺を発明した。筆者は、数学史で計算尺が対数に深く関わっている道具として価値があると考える。
本研究では、実践授業を通して、「Napierによる対数の発見」の原典解釈によって生徒が対数の有用性を理解する効果と、そこで道具として計算尺を利用する価値を議論する。
研究内容
(1) 研究方法
「Napierによる対数の発見」に関する原典を利用し、教材化を図る。そして実践授業を行い、授業の様子を撮影したビデオ、事前・事後のアンケートおよび生徒の感想をもとに、設定した課題が達成されたかを検証する。
(2) 教材化
「Napierによる対数の発見」に関する原典を利用し、教材化を行った。おもな原典として、『A
Description of the Admirable Table of Logarithmes』を用いた。生徒の活動を明確にするために、人物紹介や原典を記載した「授業資料」と、生徒が問題などに取り組む「ワークシート」に分けて作成した。
(3) 授業の展開
1時間目に「Napierによる対数の発見」の原典解釈、2時間目に道具として計算尺を利用した実践授業を行った。その際、以下の課題を設定した。
課題1:原典解釈により生徒が対数の有用性を生徒が捉えることができるか。
課題2:対数を歴史的な視点から眺め、計算尺の利用により生徒が対数に対して持っていた抽象的なイメージを具体的なイメージへと広げることに効果があるか。
研究のまとめ
本研究では、「Napierによる対数」に関する原典解釈と、それに伴って計算尺を道具として利用し、その効果を調べるために実践授業を行った。事後アンケートでの生徒の回答から、原典解釈と計算尺の利用によって生徒の対数へのイメージが抽象から具体へと拡大し、生徒が対数を有用なものとしてとらえることに効果があったと考える。また、計算尺の利用は原典解釈との併用により生徒の対数に対する有用性の理解に貢献できるものとして注目すべきものであると主張する。
本研究では、Napierが行った対数の定義に重点をおいたため、Napierの作成した対数表について取り扱うことができなかった。Napierの対数表に関する原典として『The
Construction of the Wonderful Canon of Logarithms』を用いた教材化と実践授業を行うことが今後の課題である。
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