要約
研究題目
透視図法の数学化についての授業研究 −射影と切断の歴史を手がかりに−
1.はじめに
問題点として、学校における数学を勉強する価値を生徒が見出せていないということが考えられる。そこで、本研究の主題を生徒の数学に対する学ぶ価値の育成とし、議論をしていく。
2.研究目的・研究方法
・研究目的
透視図の中にある数学、射影と切断を扱う場面で、3次元にあるものを2次元に映したり、またそこで教具を使ったりすることを通して、生徒が「なぜ数学を勉強しなければならないのか」を考えることができる。
・研究方法
以下の下位課題を設定し、ビデオ及び生徒へのアンケートを基にこの下位課題が達成されたかどうかを判断する。
@ 生徒は、透視図法から発展した数学の原典解釈を通して、数学が他の教科(学問)を学習するための基礎となるということを理解できるか。
A 生徒は、数学が積み重なり発展してきたことを感じ取り、数学がより進んだ数学を学習するために必要であることを理解できるか。
B 生徒は、数学史の授業を通して、思考力・表現力・判断力を身につけることができるか。
C 生徒は、数学史の授業やそれにまつわる器具の使用により、知的楽しみを経験することができるか。
3.透視図法の教材化
透視図法から発展したデザルグの定理とパスカルの定理の教材化を行った。はじめに、透視図法から数学が発展するという過程を示すために透視図法についてのテキストを開発した。デューラーとダ・ヴィンチから、平行な直線群が透視図においては一点で交わる直線群になるという線束の考え方を得るために、正方形の格子の透視図を描く方法を示した。
次に、デザルグの定理を取り上げた。デザルグの定理は平面上(2次元)での定理であるが、それを証明する時に、2次元の中だけで考えて証明をするのではなく、3次元から2次元へと移す(射影)ことを用いて、証明していることに価値があると考え、それを生徒が追体験することに配慮した。
つづいて、パスカルの定理を取り上げた。パスカルの定理は、円錐の切断を用いて考えたということに注目し、デザルグとパスカルとの関係を示した。
最後に、この題材の中に含まれている数学史上の意義は、デザルグやパスカルが意識した図形の性質探究の方法である射影と切断が幾何学観の変更をもたらしたと考える。ここで、生徒はその方法を経験することができる。
4.透視図法の授業概要
報告書、スライド、テキスト等を参照
5.結果と考察
この研究では、生徒の価値観を変容させるための手段として、数学史を教材にすることと、器具を操作したり観察したりすることに注目した。下位課題@〜Cの考察の結果として、課題は達成されたと判断した(詳しくは報告書参照)。よって、透視図法の中に潜んでいる射影と切断という幾何的方法を体験した生徒は、数学に対する価値観の変容が起こったと判断できると思われる。
参考文献
杉山吉茂(1999). 数学科の目標. 所蔵 杉山吉茂, 澤田利夫, 橋本吉彦, 町田彰一郎(編), 数学科教育―中学・高校 (pp. 12-21). 東京: 学文社.