要約


道具からの数学化による文化的営みとしての数学授業

―日時計を用いた円錐曲線の教材開発―

                                筑波大学大学院修士課程教育研究科 高見香織
1.はじめに

Freudenthal1968)が指摘するように、「実在を数学化する過程や、できることならば、数学を数学化する過程」を数学の学習であると考える。数学は人の営みによって生み出され、発展してきた。したがって、数学化する過程を学習する際には、「数学と人間のかかわりを、その人間への共感を通じて主観的にその生き様と認め、そこでの教訓を共有していくパースペクティブを数学教育学に提供する」(礒田,2002)解釈学を用いることが重要である。
 数学
Cでは、「いろいろな曲線」の中で円錐曲線の3種類を取り上げている。筆者はO.ノイゲバウハー(1990)と同様に、古代ギリシア人たちが日時計について探究する過程で、円錐を切断し、円錐曲線を得たのだと考える。そこで、「真正の歴史資料である一次文献、そしてその時代の道具(言語表現、用具など)」(礒田,2001)の解釈と他者の立場に立って共感的に考えることを重視し、古代ギリシア時代に存在した日時計を解釈することを通して、円錐曲線を見いだすことに焦点を当てた。高校生は放物線や双曲線を関数のグラフとして学習してきている。そのため、原典としてアポロニウスの「円錐曲線論」を使用し、彼の数学化の活動を追体験することによって、これらの曲線は円錐の切断面に現れる切り口として考え出されたという異文化体験することができ、理解を深めることもできる。
 本研究では、当時の生活上使用されていた日時計をもとに円錐曲線について、数学化の過程を追体験する授業を実践し、議論した。

2.研究目的・研究方法
(1).研究目的
  円錐曲線に関する数学史を取り入れた授業を通して、数学を文化的な営みとして捉えることにより、数学観を変容することができるか、また円錐曲線の性質について理解を深めることができるかを考察する。
   課題1:日時計を題材とし、数学史を用いて曲線を導くアプローチの現在との違いを知ることにより、数学が人の文化的営みであり、数学化による活動であると数学に対する生徒の見方を変えることができるか。
   課題2:円錐曲線について数学史的なアプローチをし、現在生徒が考えているグラフとしての曲線とは異なった作図方法を体験することで、曲線の性質について理解を深めることができるか。
(2).研究方法
 日時計を題材とした円錐曲線に関するテキストを開発し、それを用いて授業実践を行う。そして、授業前後のアンケート、各授業時間後の生徒の感想、ビデオによる授業記録に基づき考察する。

3.おわりに
 本研究において、円錐曲線に関する数学史的な授業実践は、追体験・異文化体験によって数学を人の文化的営みと捉え、発展してきたと認識すること、そして曲線についての理解を深めることに有効であることを示すことができた。円錐曲線の性質に関する内容は、今回のアンケート結果に、「難しかった」という感想が多くあったように容易な内容ではない。日時計という日常の道具を解釈することから、円錐曲線の概念を作り出す、つまり実在するものを数学化するという活動はとても重要な数学の学習である。数学史を取り入れ、原典解釈するなど、数学化の活動を追体験する学習は、生徒が数学とは何か改めて考えることができる好機である。したがって、数学史を取り入れた数学の教材研究はどの分野においても重要であり、今後より多くの興味深い歴史的背景を踏まえた教材開発を行っていくことが今後の課題である。
  

 

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