要約

筑波大学教育研究科 新木伸次

本研究題目
デカルト『幾何学』を用いた授業研究 ―道具を通して原典を読む解釈学的営み―

1.はじめに
 数学史を解釈学的営み(礒田 2002)によって学習することを通して、生徒が自ら数学を人の文化的営みであると知る活動に取り組むことが期待される。そして、道具はそのような活動を行なうために、「他者の立場の想定に役立つ道具」(礒田 2003)としての価値を持つ。それに基づき、本研究ではデカルトの『幾何学』を題材にした教材開発と授業実践を行なった。
2.研究目的・方法
研究目的
 デカルトの『幾何学』を題材として道具に着目した解釈学的営みを行なう授業実践によって、数学が人の文化的営みであることを生徒が知り、数学観の変容を促すことができるか。
研究方法
 上記の目的の達成を確認するために以下の課題を設定し、アンケートや授業後の感想、授 業の様子を撮影したビデオ等によって、設定した課題が達成されたかどうかを調査する。
 課題1:デカルトの道具に着目して原典を解釈することによって、現在自分たちが学んでいる数学と当時の数学を比較して考えることができるか。
 課題2:デカルトによって数学が変えられたことを追体験することによって、数学が人の文化的営みであると知り、数学を創造的に捉えることができるか。
3.『幾何学』の教材化
 デカルト以前の代数学はアラビア由来の代数学であり、未知のものが求められたと考えてそれを求める解法のアルゴリズムを研究していた。しかし、その解法の正しさは幾何学的に図形で示されることによって、その妥当性を得ていた。そこでは2つの数を掛けたものは面積を表すといったように、その表現方法において次元の制約を持っていた。デカルトは『幾何学』において、そのような次元による制約を線分に帰着させることによってのりこえようとした。授業ではデカルト以前の代数学の例として、カルダノによる二次方程式の解法を考えられるようにし、デカルトの線分算と比較できるようにした。
 デカルト以前の幾何学は作図のための道具として定規とコンパスしか認められていなかったが、デカルトは幾何学的と呼ばれるものの中に道具によって描かれる曲線を含めることを提案した。授業で用いた道具であるメソラボス・コンパスは、デカルトの考える幾何学的曲線を作図するための道具として『幾何学』に現れる。また、メソラボス・コンパスは、本来の目的であったと考えられる多くの比例中項を見出すことができるという点からも、それを幾何学的とすることのよさが示される。
 本研究では、メソラボス・コンパスを授業の初めに示し、「なぜデカルトはそのような道具を用いたのか」という問いをもって考えられるようにすることから始めた。そして、そこから『幾何学』を読むことによって、デカルトの考えを追体験する解釈学的営みを行なった。
4.メソラボス・コンパスの数学的解説
 報告書を参照。
5.授業概要
 報告書、スライド、テキスト等を参照。
6.結果と考察
課題1について
 授業後の感想、アンケートから道具に着目して原典を解釈することによって、現在自分たちが学んでいる数学と当時の数学を比較して考えていたことが示された。(詳しくは報告書を参照)
課題2について
 授業後の感想から、追体験することによって、数学が人の文化的営みであると捉え、現在の自分の学んでいる数学と比較するなどして、数学を創造的に捉えることができていたことが示された。(詳しくは報告書を参照)
参考文献
 礒田正美(2002). 解釈学からみた数学的活動論の展開: 人間の営みを構想する数学教育学へのパースペクティブ. 筑波数学教育研究, 21, 1-10.
 礒田正美(2003). なぜ道具を数学教育で活用する必要があるのか: 道具を使ってこそ学べる数学の教育的価値を明かすためのパースペクティブ. 日本数学教育学会第36回数学教育論文発表会: 「課題別分科会」発表集録: 今後の我が国の数学教育研究, 246-249.

数学史教材の展示室| 数学の歴史博物館| この教材のトップへ