要約

筑波大学教育研究科 白川嘉子

本研究題目
ピタゴラス音律にみられる数学を題材とした授業研究 ―モノコードの追体験を通して―

1.はじめに
 本研究では、他教科とのつながりという視点からピタゴラス音律を取り上げ、「モノコード」という楽器を用いて古代ギリシアにおける数学を追体験をすることで、三角関数を身近に感じることができるか否かを考察した。

2.研究目的・研究方法

研究目的
 教材化された歴史的道具を利用した授業を行うことにより、その当時の追体験を通して、数学観の変容が見られるかを考察する。以下に下位課題を設定する。
 (1) 生徒自身の手で作図を行い、道具を用いることで、数学に対する新しい考え方が見出されるか。
 (2) 他の教科および歴史の追体験を通して、数学に対する興味・関心を持つことができるか。
 (3) 三角関数を身近に感じることができるか。

研究方法
数学史、道具を用いて授業を行い、授業の事前・事後に行ったアンケート、各授業での生徒の感想、授業を撮影したビデオをもとに考察する。
3.ピタゴラス音律の教材化
 古代バビロニアやエジプトにおいて、音程と比率との関係は耳によって理解され、楽器の調律の中に生かされていたが、音程と比率との関係を明確に体系づけたり、法則を発見しようとするまでには至っていなかった。ピタゴラスは、協和する音程の背後にある秩序を解明しようと試み、モノコードを用いて音の実験を行った。モノコードは音律を規定するために音程の計測を目的とした楽器である。授業では、ピタゴラスの実験を作図を通して幾何学的に確認し、次に当時のものコードを再現し、実際に音程を耳で確認することでピタゴラス音律を数学と音楽の双方から学習することを試みた。さらに音は形のないものなので視覚的に捉えることができるように波として表し、その波が三角関数で表すことができ、和音(2つの音)の波が単音の波の和で表されていることをGrapes、wave paseriを用いて確かめた。
 ピタゴラスの実験とは、基本音の弦の長さを1とし、その2/3倍をとり、その点を純正五度とした。次は原点から2/3の点までを1として考え、さらに2/3倍の点を取り、その点が1/2の点より左側に取れたときには、弦の1/2から1の間に音階が成り立つよう2倍にして点を取った。この作業を繰り返し行うことにより12個の音が得られる。この作業において、弦の長さ1の基本音をドとし、その音から7番目までの作業で得られる音を音階上に並べ、ファ# (シャープ)をファと置き換えられたものがピタゴラス音律の音階である。
4.ピタゴラス音律の数学的解説
報告書、スライド等を参照。

5.ピタゴラス音律を題材とした授業概要
報告書、スライド、テキスト等を参照。

6.議論
課題(1)について
 事後アンケートから音楽と数学のつながりを普段はあまり考えないためか、生徒自身の手で作図を行い、道具を用いることで、数学に対する新しい考え方見出されたことが分かった。また、アンケートに「今回のような授業は今まで受けたことがなかったのですが、このような授業が普通にあって欲しいなあ、と思いました」という生徒の感想があり、道具を用いることによって、生徒自身が自ら活動し、考える機会があるので、それにより授業の印象が残りやすいと考えられる。
課題(2)について
 事後アンケートの結果から「いろいろな数学があってアプローチの方法も様々でそこに面白味を感じた」や「フーリエ級数について知りたい」という意見が得られた。また、身の回りにあるものから数学的性質を見つけようと思うかどうかについてのアンケートでは、「どちらでもない」から「賛成」へと変化が見られた。これらのことから追体験を通した授業によって、数学に対する興味・関心を持つことができたと考えられる。
課題(3)について
 事後アンケートや授業の感想から音楽を通すことにより数学が身近に感じることかできるようになったという結果を得た。このことから、ピタゴラス音律の音階の作図を行ったり、Grapesやwave paseriを用いて音の波の様子を観察することにより、印象が残り、数学を身近に感じやすくなったと考えられる。

<参考文献>
・藤枝守(1998).響きの考古学. 音楽之友社
・礒田正美 (2001). 異文化体験からみた数学の文化的視野の覚醒による一考察 ―隠れた文化としての数学観の意識化と変容を求めて―. 筑波数学教育研究, 20, pp.39-48
・トランスカレッジ オブ レックス編(2000). フーリエの冒険. 東京:言語交流研究所 ヒッポファミリークラブ

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