要約

教育研究科 田中 真樹子

研究題目:リンク機構を教材とした、数学的活動を高める授業の研究
        −プラジオグラフを使った図形の回転移動の学習−

1.はじめに
 本研究は、礒田(2003)の立場にたち、リンク機構を用いて中学3年生を対象とした図形の回転移動についての教材化及び授業実践を行った。
 以下がその目的・方法である。

2.研究目的・研究方法
(1)研究目的 
  道具を使った数学的活動」を通じて生徒たちが道具の背後にある数学史に触れ、数学への興味・関心を高めると同時に、発展的内容を学習することを目的とする。
(2)研究方法
 以下のような下位課題を設定した。授業テキスト(ワークシートを含む)とビデオカメラによる授業記録、生徒たちが毎回の授業で行う振り返り活動をもとに考察する。
  課題1:自分たちで道具を作り、その道具の仕組みや道具の生み出された背景に興味を持つことを通じて、数学と自然 と向き合う姿勢が生まれるか。
  課題2:道具の仕組みを探究することを通して、中学生の苦手意識の強い分野の1つである証明を中心とした数学的活 動に興味を持って取り組む機会を提供できるか。
  課題3:未習である回転移動を発展的内容として学習することができるか。

3.プラジオグラフの教材化について
 プラジオグラフは、1875年にアメリカのJ.J,Sylvesterによって発見されたリンク機構である。本研究ではシルベスターの論文「On The Pantigraph aliter The Skew Pantigraph」を原典として用いた。シルベスターは、従来のパンタグラフ(相似変換する機構)をもとに、回転移動や回転移動+相似変換を可能にする道具であるプラジオグラフを発見した。
 今回の授業では、生徒たちがそれほど複雑な証明に慣れておらず、困難が予想されたため、最も動きについて考察しやすいと思われる道具を限定して用いることにした。即ち、正三角形と平行四辺形を組み合わせた、60度の変換を可能にする道具を用いた。

4.プラジオグラフを用いた授業概要
 報告書・テキストを参考のこと。

5.考察 
 課題1について:道具の仕組みや動かすことに興味を持ち、なぜなのかという探究心を高めることができた。
 課題2について:生徒たちの記述から、困難さを感じながらも証明活動の大切さや面白さが感じられたことがわかった。道具を使うことで、最後まで粘り強 く取り組めたと考えられる。はじめの「なぜ?」という疑問の気持ちだけでは乗り越えられなかった部分を「〇〇を明らかにする」という目標で引き継ぐことができたといえる。
 課題3について:回転移動について、既習の内容の発展として考察することはできなかったが、新しい図形の見方を体験し、学ぶこととなった。結果、半数の生徒が回転移動について、その証明まで理解できたと答えている。このことから発展的な学習の活動となり得たと考えられる。  

6.参考文献
 J.J,Sylvester(1895).On The Plagiograph aliter The Skew Pantigraph. Nature,12 pp.214〜216
 礒田正美(2003). なぜ道具を数学教育で活用する必要があるのか. 日本数学教育学会第36回数学教育論文発表会「課題別分科会」発表収録. pp.246〜249

                                                                     

                                             
                                        

 

 

 

数学史教材の展示室| 数学の歴史博物館| この教材のトップへ