要約

筑波大学大学院教育研究科 林亜規子

研究題目
ピタゴラス数に関する古代数学を題材とした授業研究 ―インドの縄張り数学とギリシアの四角数の追体験を通して―

1. はじめに
 現状において、生徒は自ら考え自ら発見する「数学的活動の楽しさ」を得る機会が少ないと思われる。本研究では、原典解釈および歴史的道具を用いた追体験を取り入れた授業実践によって、生徒の変容を考察していく。

2. 研究目的・研究方法
(1) 研究目的
 ピタゴラス数に関する古代数学の、原典解釈および歴史的道具を用いた追体験を取り入れた授業を行うことによって、自ら考え自ら発見する数学的活動の楽しさを見出し、多面的な数学の考え方を共感的に認めることができるかどうかを考察する。
 上記の目的を達成するため、以下の課題を設定する。
課題1:ピタゴラス数に関する古代数学の原典解釈および歴史的道具を用いた追体験により、生徒が自ら考え発見する喜びを味わうことができるか。
課題2:課題1を通して、生徒が人の営みとしての数学を認識し、傷からの数学文化とは異なる新しい数学の考え方を共感的に認めることができるか。
(2) 研究方法
 数学史における原典(翻訳文献を含む)を利用して教材を開発し、それを用いた授業研究を行う。そして、授業の事前・事後のアンケートや、ビデオによる授業記録をもとに、設定した課題が達成されているかを考察する。

3. ピタゴラス数の教材化
 ピタゴラス数に関連が深い、インドの縄張り数学とギリシアの四角数を中心に、原典解釈および歴史的道具を用いて教材化を行った。縄張り数学は、紀元前6世紀頃の祭場の設営方法を記した『シュルバスートラ』を原典とした。そこには、ピタゴラス数を用いて直角を縄で作り、長方形を作図する方法が記載されている。また、ギリシアの当時の数の考え方を知るために、プラトン著作の『テアイテトス』を原典とし、「正方形数」と「長方形数」の記述を取り上げた。当時は「数を図形として捉え、理解する」という考えをしていた。この考えは四角数でも見ることができる。そして、『Greek Mathematical Work』を原典として、おはじきを用いて四角数の探究を行い、四角数からピタゴラス数を発見する活動を行う。

4. 道具の数学的解説
 報告書の「道具の数学的解説」を参照。

4. 授業概要
 報告書、授業スライド・テキスト等を参照。

5. 考察
 事前・事後アンケートの比較および授業中の記録によって、以下のことが確認された。
@ 「ピタゴラス数は図形の数」「ピタゴラス数で面積や図を求めることができる」等の生徒の意見から、生徒がピタゴラス数をさまざまな側面から捉えることができたこと。
A 縄張り数学の証明や四角数からピタゴラス数を発見した際に、多くの生徒から驚きと歓喜の声が出たことから、生徒が追体験によって新しい考えを驚きと喜びを持って見出せたこと。
B 歴史を通して数学を学ぶことについて、「定理が発見された由来が分かる」「いろいろな時代の考え方が分かる」等の生徒の意見から、数学史を用いた数学学習によって、生徒が自分自身の中には無かった新しい考えを共感的に認識できたこと。
 以上より、原典解釈および歴史的道具を用いた追体験を通して、生徒が数学的活動の楽しさを見出し、多面的な数学の考え方を共感的に認めることができたことが示された。

<参考文献>
礒田正美 (2001). 異文化体験からみた数学の文化的視野の覚醒に関する一考察: 隠れた文化としての数学観の意識化と変容を求めて. 筑波大学数学教育研究, 20, pp. 39-48.

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