本研究題目 解釈学的営みとしての数学授業に関する一考察
〜角の三等分問題を題材として〜
1.はじめに
本研究では、授業題材として数学史的話題を取り上げ、解釈学的営みに基づいて教材を作成し、その教材を用いた授業実践を行った。研究目的、研究方法は以下に示す。
2.研究目的・研究方法
研究目的
解釈学的営みの立場から数学史的な話題を扱うことにより、生徒が積極的に取り組み、数学的活動の楽しさや数学的な見方や考え方の良さを感じることができることを示す。
研究方法
以下の3つの課題を設定し、授業中のビデオ及び生徒への事前・事後アンケートを基にこの課題が達成されたかどうかを判断する。
課題1:角の三等分問題を通して、当時の数学を現在と異なった文化として捉えることができるか。
課題2:原典解釈を用いた三等分器作成の過程や2つの三等分器の比較から、ケンペの考えのよさを感じとることができるか。
課題3:数学史を題材とした解釈学的営みの授業実践により、生徒が積極的に取り組み、数学的活動の楽しさを感じることができるか。
3.角の三等分問題の教材開発
古代ギリシア時代の数学は、定規とコンパスを有限回使用して作図するというものであった。このギリシア時代の数学の大問題として角の三等分問題が存在した。この角の三等分問題に対して、様々なギリシア人や数学者が挑戦したが定木とコンパスを有限回使用して作図するという数学では解くことはできなかった。1837年、この角の三等分問題は、ピエール・ローラン・ヴァンツェルによってギリシア数学で作図することは不可能であることが証明された。
授業題材は、1時間目に古代ギリシア時代の数学、2時間目にパスカルの角の三等分器、3時間目にケンペの角の三等分器を取り上げた。授業では、解釈学的営みを中心に位置付け、古代ギリシア時代の数学の考えや角の三等分器の作成者の考えに注目した。
4角の三等分問題の授業概要
報告書、スライド、テキスト等を参照。
5.結果と考察
課題1について
授業において、古代ギリシア時代の数学は、定木とコンパスを有限回用いて作図する数学であったことに、生徒は「驚いた」と示していることから、生徒が異文化であるギリシア時代の数学にカルチャーショックを受けていることが分かる。このことから、課題1を達成できたと考える。
課題2について
授業において、ケンペの三等分器の作成過程や2つの三等分器を比較する活動において、生徒はケンペの考えによさを感じ、さらにはそのケンペの考えのよさを基にケンペの三等分器がパスカルの三等分器よりも有用であるという結論を下した。このことから、課題2を達成できたと考える。
課題3について
授業において、生徒が自ら活動をおこし、積極的に考察を行う態度が見られた。特に道具を用いた考察場面では、生徒は自ら「角」や「長さ」に注目したり道具をいろいろと動かすなどの活動が見られた。アンケートでは、数学に対して歴史的に捉える視点の重要性を感じている生徒も見られた。このことから、課題3を達成できたと考える。
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