要約
筑波大学教育研究科 御子柴俊一
本研究題目
数学史とそれにちなんだ道具を用いた授業研究
ー「クロススタッフ」を題材としてー
授業実施時期
2004年10月
学習指導要領との関連
中学校1年 「比例、反比例」
中学校2年 「円の性質」
中学校3年 「三平方の定理」
高等学校 数学T 「図形と計量」
高等学校 数学基礎 「数学と人間の活動」
既習事項
相似な三角形の線分比
指導可能学年
三角比のような、弦の長さと角度を対応させる考え方を使うので、三角比を既習の高校1年生以上が良いと思われるが、三角形の相似を既習であれば中学校3年生でも可能。
1.はじめに
本研究ではクロススタッフを題材とした授業で、三角形の相似を利用して長さや角度を測ることを通して、生徒が数学を人の営みとして捉え、数学への興味・関心をもち、創造性の基礎を培うことができるかを考察した。
2.研究目的・研究方法
研究目的
数学史とそれにちなんだ道具を題材とした授業を行うことで、生徒が数学を人の営みとして捉え、数学への興味・関心をもち、創造性の基礎を培うことができるかを考察する。
目的達成のため以下の課題を設定する。
課題1:原典解釈および、実際に使ってみることで道具の構造・原理を理解し、道具の中にある数学を見出し、数学を人の営みとして捉えることができるか。
課題2:課題1の達成により、創造性の基礎を培うことができるか。
研究方法
数学史とそれにちなんだ道具を用いたオリジナルの教材を作成し、授業を行う。その授業のビデオと、事前・事後のアンケートに基づき考察する。
3.「クロススタッフ」の教材化
本授業研究で題材とするクロススタッフは、距離、物の大きさや、太陽の高度などの角度を測るための道具である。クロススタッフはもともと、紀元前400年頃にカルデアの天文学者が使用していたと言われている。1328年にカタロニアのユダヤ人Levi
ben Gersonがクロススタッフについての最初の記述を残している。本授業研究では、Levi
ben Gersonの著書のラテン語訳Milhamot adonaiの英語訳The Wars of the Lordのchapter7の一部を原典として扱う。
クロススタッフは、大航海時代には海上での使用が盛んに行われていたため便宜上目盛りの取り方が工夫されていったが、Leviの記述したクロススタッフには、等間隔の目盛りのみしか使われていない。したがって見た目の構造は極めて単純である。このような単純な道具の中に数学が用いられていることに気づくことで、より一層数学への興味・関心を喚起することができると考え、本授業研究の課題とした。
4.「クロススタッフ」の数学的解説
報告書、スライド、テキストなどを参照。
5.「クロススタッフ」の授業概要
報告書、スライド、テキストなどを参照。
6.議論
課題1に対する議論
事後アンケートから、数学が盛り込まれている道具を使っていることを認識し、感動していること、昔の人が生活のために数学を用いて道具を発明したことを認識し、感動していること、数学が人の生活に必要であることを認識していることなどが読み取られた。また、「日常生活で三角形の相似が利用されていると思いますか」とういう質問に対して、「はい」と答えた生徒が、41%から51%に増えていた。以上から、課題1は達成されたといえる。
課題2に対する議論
創造性の基礎とは、「多面的にものを見る力や論理的に考える力」、「学習に興味・関心をもち、数学的に考察処理する力」、「数学的な表現・処理の美しさや数学的な見方や考え方のよさを認識する豊な感性」などのことである。事後アンケートから、数学的な見方や考え方のよさを認識していること、興味・関心を喚起できていること、などが読み取られた。以上から、課題2は達成されたといえる。
参考文献
・Bernard R. Goldstein(1985). The Astronomy of Levi ben Gerson(1288-1344). A Crirical Edition of chapters
1-20 with Translation and Commentary. Studies in the history of mathematics
and physical sciences 11. Springer Verlag.
・礒田正美(2003). なぜ道具を数学教育で活用する必要があるのか:道具を使ってこそ学べる数学の教育的価値を明かすためのパースペクティブ.日本数学教育学会第36回数学教育論文発表会「課題別分科会」発表集録.