要約
筑波大学教育研究科 秋山裕紀
本研究題目
アルキメデス『浮体について』の体験的学習を通した生徒の数学観の変容 −幾何的思考を用いた物理現象の考察−
授業実施時期
2004年12月
学習指導要領との関連
中学校3年 「図形の相似」
高等学校 数学U 「いろいろな関数」
高等学校 数学A 「平面図形」
高等学校 数学C 「式と曲線」
高等学校 数学基礎 「数学と人間の活動」
既習事項
重心の性質、放物線のグラフ
指導可能学年
高校2年生〜
1.はじめに
本研究では『浮体について』で登場する「回転放物体の直角切片」をもとにした道具を用い、物理現象を幾何的に分析しているアルキメデスの発見法を体験し、幾何学的性質だけを用いて物理現象を考察した。
2.研究目的・研究方法
研究目的
原典、及び教材化された道具を利用した数学の学習から、異文化体験と数学観の変容が授業内で達成することができるかを考察する。目的達成のため以下を課題とする。
(1)物理現象と数学の関わりを見出し、自ら発見し、体験する喜びを味わうことができるか考察する。
(2)数学史を用いた学習により、数学と人間との関わりを通して数学のよさを感じることができるかを考察する。
(3)数学が身の回りに存在していることを実感することができるかを考察する。
(4)生徒が人の営みとしての数学を認識し、自らの数学文化とは異なる新しい数学の考え方を共感的に認めることができるか。
研究方法
『浮体について』をもとにオリジナルの教材を作成し、授業を行う。授業テキストとビデオによる授業記録、及び事前・事後アンケートをもとに考察する。
3.『浮体について』の教材化
『浮体について』は、アルキメデス(B.C287〜B.C212)による紀元前に書かれた文献である。その中でアルキメデスは流体中に物体(回転放物体)が浮かんでいるという物理現象を幾何的に解明しようとしている。主にその幾何的証明を教材に用いた。また導入ではヴァーサ号転覆沈没事故(1628年)という歴史事実を持ち出すことにより一層話題が身近になり、興味が持てるように配慮した。1628年はニュートン、ライプニッツら微分・積分を完成させたとされる人物の誕生直前であり、多くの微分や積分などの数学的知識を必要とする船舶理論が発達していなかったことも沈没原因の一つだったことも触れ、微分積分未習者である受講者がこれからの高校での数学において興味を持てるようにした。一日目はつりあいの条件を幾何的に証明し、その次に代数的な証明を行った。また二日目はつりあいの幾何的考察をおこなったあとに実験をおこなった。
4.「木片」の数学的解説
報告書、スライドを参照
5.『浮体について』を題材とした授業概要
報告書、スライド、テキストなどを参照
6.議論
課題1について
授業後に行ったアンケートにおいて「授業を受ける前と後で変わった数学に対する考え方はあるか」という質問に対し、「数学単体で独立⇒物理などとの関係が思ったより深かった」のような意見があり、物理現象と数学の関わりを見出したと言える。
課題2について
「数学に歴史を感じるか」という事後アンケートの質問に対し、「流れがあるので関連性があって勉強しやすい」「様々な思考パターンを知ることもできるし、今よりは限られた手法の中でどのように(問題を)解いたのか興味あり」「最近のものを理解するには、以前の単純な方法を理解しないと難しいと感じた。」など数学は文化を含んで歴史的発展を遂げてきたものであるという数学観を持つことができたと考えられる。
課題3について
「数学が日常の中で使われていることを実感する」という事前・事後のアンケートを行ったが、肯定的な意見が授業前は2名だったのに対し、授業後のそれは4名に増え、数学が日常の様々なところに存在することを感じることができたといえる。
課題4について
「問題の解き方は、時代によって変わるものである」という事前・事後アンケートを行ったが、肯定的な意見が授業前は2名だったのに対し、授業後のそれは4名に増え、自らの数学文化とは異なる新しい数学文化を認めることができたと言える。
参考文献
・ T.L.Heath The works of Archimedes with the method of
Archimedes
・ Xavier Lefort MATHEMATICS
AND SHIPBUILDING AT THE TRANSITIONAL XVV CENTURY From the French complication works instigated by Colbert to the
great work from Chapman
・ 礒田正美(2001).異文化体験からみた数学の文化的視野の覚醒に関する一考察
−隠れた文化としての数学観の意識化と変容を求めて−