要約 |
筑波大学教育研究科 淡川直樹 |
本研究題目 円周率の近似に関する授業研究 −アルキメデスの「円の計測」を題材として− 授業実施時期 2005年10月 学習指導要領との関連 中学校1年 「比例、反比例」 中学校3年 「図形の相似」「三平方の定理」 高等学校 数学T 「方程式と不等式」「図形と計量」 高等学校 数学V 「極限」 高等学校 数学B 「数列」 高等学校 数学基礎 「数学と人間の活動」 既習事項 相似な三角形の線分比 指導可能学年 高校2年生〜 |
1.はじめに 本研究ではアルキメデスの『円の計測』に沿って、円周率の近似をする。生徒は「なぜ」を起点として考察し、予想し、数学を用いてそれらを確かめる。これにより、生徒の数学観に与える影響・変化を考察した。 |
2.研究目的・研究方法 研究目的 アルキメデスの「円の計測」の原典解釈を通して、自ら持った疑問を突き詰め、深めることができるかを考察する。また、アルキメデスの方法とそれ以後の方法を比較する中で過去の偉業を知ることや、その過程で数学の一般性に気付けるかを考察する。以上の目的を達成する為に以下の課題を設定する。 課題1:原典を用いた授業実践を通して持った疑問や、気づいたことから自分なりに深め、今まで学んだ数学の知識を用いて解法を考えることができるか。 課題2:アルキメデスにおける円周率の近似の方法と、それ以後の方法を比較して過去の偉業を知ることができるか。また、数学の発展は、過去の偉業の上の発展であると理解することができるか。 研究方法 アルキメデスの「円の計測」を題材としたオリジナル教材を作成し、授業を行う。その授業を撮影したビデオや、事前・事後アンケートに基づき考察する。 |
3.『円の計測』の教材化 本研究ではアルキメデスの「円の計測」の命題3を原典として用いた。命題3では円周を外接正96角形の周と内接正96角形の周で近似するものである。その値は0.140845…<π<3.142857…となり、当時かなりの精度であったと想像できる。筆者はアルキメデスの創造性に感銘を受け、生徒にもこの素晴らしさを感じてもらいたいと思ったことが、原典を教材化した理由である。また、アルキメデスのような人物の原典を扱うことで、数学には歴史があり偉人の功績によって進歩してきたこと、高等学校での学習に関連が深いこともこの原典を教材化した理由である。 本研究では導入として、漸化式を用いて、円に内接する正多角形の周を表した円周率の近似式を導いた。次に、アルキメデスの原典に沿った方法で外接正多角形の周で近似した円周率を導いた。内接・外接正多角形で出した近似値を各多角形ごとに不等式で表し、その精度を比較した。そこから解法の違いを考察し、無理数の性質や無限や極限について考えられるような教材を作成した。 |
4.『円の計測』の数学的解説 報告書、スライド、テキストなどを参照。 |
5.『円の計測』を題材とした授業概要 報告書、スライド、テキストなどを参照。 |
6.議論 課題(1)について 事後アンケートから、「数学だけに限らず結果に至るまでの過程が気になるようになった。」、「問題を解くのに一問一問考える時間をかけたいと思った。」、「アルキメデスの考え方を通して、疑問に対しての考え方・アプローチの仕方などが参考になった。」などの意見が得られた。これらから生徒は、アルキメデスの原典の教材によって自分なりに考えを深め、その過程を考えることの重要性を感じたことが読み取れる。 課題(2)について 事後アンケートから、「紀元前の人が発見したことなのに、それが今でも残っていて実際に計算等に使われている。」、「(近似に対して)どんな方法を尽くしても完璧な解答は無いのにそれに近づくために様々な方法を何度も何度も繰り返して行くのがすごいと思う。」などの意見があった。これらから生徒はアルキメデスによる円周率の近似の方法と、それ以後とのかかわりを比較できており、数学の発展性理解できていると考えられる。 また、「(数学は)探求し続けることがもっとできる」などの意見は、以前の発展性を踏まえ、将来も発展していくことを感じ、数学への興味・関心を高めら れていると考えられる。 |
参考文献 ・J.L. Heiberg(1910). Archimedis opera omnia cum commentariis Eutocii, Editio stereotypa editionis anni 1910, Vol. 1. Lipsiae : B.G. Teubner ・礒田正美(2002). 数学活動を楽しむ心を育てる。課題学習・選択学習・総合学習の教材開発. pp.8-9 |