要約 |
筑波大学教育研究科 岩井 剛 |
本研究題目 数学的帰納法の理解に関する研究 ―パスカルの数三角形を題材として― 授業実施時期 2005年12月 学習指導要領との関連 高等学校 数学V 「極限」 高等学校 数学A 「場合の数と確率」 高等学校 数学B 「数列」 既習事項 数学的帰納法 指導可能学年 高校2年生〜 |
1.はじめに 本研究では、パスカルの数三角形に関する原典を授業で扱うことで、生徒が数学的帰納法に対する知識を再構成し得るか、また、生徒の数学観に変容が見られるかを考察した。 |
2.研究目的・研究方法 研究目的 パスカルの原典『数三角形論』の解釈を通して、生徒が数学的帰納法に対する知識を再構成し得るかどうか、また、数学的帰納法の起源に触れ、当時の表現様式を吟味することで、生徒の数学観に変容が見られるかどうかを考察することを目的とする。 課題1:パスカルが行った帰結第12の証明を、その立場を想定しながら行うことで、数学的帰納法が「無限に多くの場合」を証明するための論法として導入されたことに気づくことができるか。 課題2:原典当時の数学の表現様式から現代の数学との共通点・相違点を見出し、現代の数学がより洗練されたものであることを生徒が自覚し得るか。 課題3:数学的帰納法の導入に触れ、数学が発展してきたことに気づけるか。 課題4:上記の課題を通して、数学的帰納法に対する理解を深めることができるか。 研究方法 上記の課題に沿って、パスカルの原典『数三角形論』を用いた教材開発を行い、数学的帰納法に焦点を当てた授業を行う。授業テキストとワークシート、ビデオカメラによる授業記録、授業前後のアンケートをもとに考察する。 |
3.パスカルの数三角形の教材化 本研究では、『パスカル全集 第一巻』に収められている『数三角形論』を原典として用い、その中の帰結第12を採り上げた。パスカルが帰結第12の証明に用いた論法については、数学的帰納法が完全な形で述べられているという立場や、数学的帰納法とは区別すべきであるという立場など、多様な立場が見られる。そこで、パスカルが帰結第12に与えた証明を、原理としての数学的帰納法の起源としながらも、完全な形での数学的帰納法とは認めず、現代の数学的帰納法とは表現様式などの面で異なるという立場から教材化を図った。 |
4.パスカルの数三角形の数学的解説 報告書、スライド、テキストなどを参照。 |
5.パスカルの数三角形を題材とした授業概要 報告書、スライド、テキストなどを参照。 |
6.考察 課題1について ワークシートから、「パスカルが最初にいっているいように、無限に多くの場合を簡潔に証明するため。」、「短い作業で無限に続くことを証明できるから。」などの意見が得られた。これらから生徒は、パスカルが「無限に多くの場合」を証明するために数学的帰納法を導入したことに気づけていることが読み取れる。 課題2について ワークシートから、「(パスカルの証明は)文字は使わず、具体的な数字を使って証明している。」、「授業で教わった数学的帰納法は、言語を多く用いて証明するというよりも、数式を使って簡単に証明していた。」などの意見が得られた。これらから生徒は、現代の数学がより洗練されたものであることに気づいていると言えるだろう。 課題3について ワークシートから「無限に多くの場合を持つ命題を証明できる。」、事後アンケートから「パスカルの発見は現代数学への発展に役立ったと思う。」などの意見が得られた。これらから生徒は、数学的昨日保jの導入が数学の発展に貢献していることを感じ取ったと読み取れる。 課題4について 事後アンケートから、数学的帰納法について、「数が規則的に無限に続くと予想される時に、それが成り立つことを証明する問題で使う。」、「自然数に関する問題(において用いる)。」、「忘れかけていた知識を再確認するだけだと思っていたのですが、さらに深いところまで知ることができ、理解が深まりました。」などの意見が得られた。これらから生徒は、数学的帰納法が自然数をに関する命題を扱うものであることを生徒が改めて認識したと読み取れる。 |
参考文献 ・中村幸四郎(1959). 数学論文集, 解説: パスカルの数学の業績について. 伊吹武彦 ほか(編), パスカル全集 第一巻(pp560-570). 人文書院. ・礒田正美(2002). 解釈学からみた数学的活動論の展開ー人間の営みを構想する数学教育学へのパースペクティブ. 筑波数学教育研究第20号. pp.1-10 |