要約

筑波大学教育研究科 楊 彬

 本研究題目
空間図形を題材にした授業実践に関する一考察−『宇宙の神秘』を題材とした空間図形の教材開発−

 授業実施時期
2005年10月

 学習指導要領との関連
中学校1年 「空間図形」
中学校3年 「三平方の定理」
高等学校 数学T 「図形と計量」
高等学校 数学A 「平面図形」
高等学校 数学基礎 「数学と人間の活動」

 指導可能学年
高校1年〜

1.はじめに
 本研究では、ケプラーの『宇宙の神秘』という原典の中に取り上げられている空間図形を中心に教材化し、平面図形と空間図形をリンクさせた授業実践を行った。この中で生徒が空間に対する新しいものの見方・考え方を身に付け、さらに原典解釈によって数学の重要性や必要性を感じ取ることができるか否かを考察した。

2.研究目的・研究方法

研究目的
 自然現象の分析をテーマとした原典を解釈する活動を通して、数学観、特に空間図形に対するものの見方の変容可能性を考察するために以下を課題とする。
 (1)生徒はケプラーの『宇宙の神秘』という原典を通して空間図形を扱う活動の中で数学の自然科学における数学の重要性・必要性を感じ取ることができるか。

 (2)平面図形から空間図形へと視野が広がっている原典を用いることで空間図形を平面図形と関連付けた見方、考え方ができるようになるか。

研究方法
 『宇宙の神秘』などを元にオリジナルな教材を作成し、授業を行う。授業テキストとビデオによる授業記録、及び事前・事後アンケートを元に考察する。

3.『宇宙の神秘』の教材化
 本研究では、上記の2つの課題の達成を目標に、数学史の原典としてヨハネス・ケプラーが1596年に出版した『宇宙の神秘』を取り上げる。
 この原典でケプラーは当時知られていた6つの惑星(水星・金星・地球・火星・木星・土星)の軌道半径の比が5つの正多面体の外接球と内接球の半径の比に一致しているという予測を検証している。しかし、実際にはケプラーの死後、天王星と海王星という新しい惑星の発見によりこの考えが間違っていた。結果的に失敗に終わったのであるが、この研究の後にケプラーは天文学において今日有名であるケプラーの三大法則を発見し、数学においては多面体の諸性質を発見した。
 この原典を取り上げた理由には以下の2点である。
 @宇宙空間について平面図形での考察から空間図形での考察へと移行しており、平面図形の学習と空間図形の学習とがリンクできる。
 A扱っている空間図形が正多面体で実際に内接球と外接球の半径の計算をユークリッド原論を用いて行い、その結果が宇宙の法則(惑星の軌道半径の比)と一致しているのではないかというケプラーの予測とその検証作業を追体験することができる


4.教材の数学的解説
報告書、スライドなどを参照。

5.『宇宙の神秘』を題材とした授業概要
報告書、スライド、テキストなどを参照。

6.議論
課題(1)について
 事後アンケートでは、数学は自然科学の中で重要な役割をなしていると思うかとの問いに対し、「惑星どうしの関係を数学を使って調べようとして、結果的に間違っていたとしても比などで表せた点を考えると、数学は重要な役割をなしていると思う。」との意見が出た。このことからケプラーの予測の検証の過程を追う体験を通じて、数学の重要性を感じ取ることができたと考えられる。

課題(2)について
 事前アンケートで空間図形の問題を解く時に工夫していることはありますかとの問いに対して、ある視点から見た平面図形に直して考えるという意見は全体の約20パーセントしかいなかった。一方、事後アンケートではこの授業を通じて空間図形の捉え方は変わったかの問いに対し、「内心で考えたり、外心で考えたり様々な視点から眺めようと思いました。」などといった平面図形の性質について述べている意見が多数見られた。このことから今回の教材で空間図形を平面図形と関連付けて捉えることができるようになった生徒がいることが確かめられた。

参考文献
・ヨハネス・ケプラー(1986)宇宙の神秘(大槻真一郎 ほか 訳).青土社
・礒田正美 (2002). 解釈学から見た数学的活動の展望−人間の営みを構想する数学教育学へのパースペクテ ィブ−筑波数学教育研究21 p157-174

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