要約

筑波大学教育研究科 近藤俊輔

本研究題目
航海における測量と歴史的道具に関する授業研究−セクターのline of Sinesと海図を題材として−

 授業実施時期
2005年12月

 学習指導要領との関連
中学校1年 「比例、反比例」
中学校3年 「相似な図形」「図形と比」
高等学校 数学T 「図形と計量」
高等学校 数学基礎 「数学と人間の活動」

 既習事項
三角形の相似、三角形と比、三角比

 指導可能学年
高校1年〜

1.はじめに
 本研究ではガンターのセクターを用いた数学的活動と、その使用法等が記述された文献の原典解釈により、生徒が数学を人間の文化的営みとして捉え、文化や社会生活において数学が果たしている役割を理解することができるかを考察した。

2.研究目的・研究方法

研究目的
 セクターに関する原典解釈と、実際にセクターを用いる数学的活動を取り入れた授業を通して、数学を人間の文化的営みとして捉え、文化や社会生活において数学が果たしている役割を理解することができるかを考察するために、以下の課題を設定した。
 (1)セクターに関する原典解釈と、実際にセクターを使った数学的活動を通して、当時のセクターの開発者・利用者の立場や考え方を想定できたか。
 (2) 課題1を受けて、航海における計算に使われたセクターに隠された数学を認識し、数学を人間の営みとして捉え、文化や社会生活において数学が果たしてる役割を理解することができたか。

研究方法
 数学史を内容とする文献を利用したオリジナル教材を用いた授業研究を行い、授業前後に実施したアンケートと、ビデオによる授業記録の分析により、上記の課題が達成されたかを考察する。

3.セクターの教材化
 セクターは16世紀から近代まで広く使われたもの計算器具であり、ガンターは、主に土地の測量のためにデザインされたトーマス・フードのセクターを、より一般的な応用のためにデザインしなおした。
 ガンターのセクターには、12の目盛りが刻まれており、本研究ではそれらの中からline of Sinesを取り上げた。この目盛りは角度に関する計算の多くに使われ、特に航海において非常に重要な役割を果たし、その使用法が原典「The description and vse of the sector, the cross-staffe, and other instrument」に記述されている。
 よって、原典でのline of Sinesの原理や使用法に関する記述を読み解き、実際にその目盛りを用いる数学的活動を行うことで、航海において数学が果たした役割を理解することができ、本研究の目的・課題を達成するのに適していると考え、教材化した。
 なお、本研究ではline of Linesも使用するが、目盛りが等間隔で刻まれているため、長さを測るための定規の役割を果たすのみである。

4.セクターの数学的解説
報告書、スライドなどを参照。

5.セクターを題材とした授業概要
報告書、スライド、テキストなどを参照。

6.考察
課題(1)について
 事後アンケートにおいて、生徒は昔の人が難しい考え方に挑んでいたことに感心し、生活をより良くしようとしてセクターを発明し、利用していたのではない かと考え、その発明の際の苦労や努力を感じ取っていると考えられる意見が伺えた。このことから、生徒は当時のセクターの開発者・利用者の立場や考え方を想 定できたと考えられる。

課題(2)について
 事後アンケートにおいて、「航海では三角比が重要なもので、日常的に利用できるものなのだと実感した」「実際に航路などで使えるための数学がセクターに 隠されていた」などの意見が得られた。このことから、生徒は航海における計算に使われたセクターに隠された数学を認識し、数学を人間の営みとして捉え、文 化や社会生活において数学が果たしてる役割を理解することができたと考えられる

参考文献
・Edmund Gunter(1971).The description and vse of the sector, the cross-staffe, and other instrument   English experience422
・礒田正美(2002).数学する心を育てる 課題学習・選択学習・総合学習の教材開発 明治図書
・礒田正美(2003).なぜ道具を数学教育で活用する必要があるのか:道具を使ってこそ学べる数学の教育的価値を明かすためのパースペクティブ 日本数学教育学会第36回数学教育論文発表会「課題別分科会」発表集録
・沓名景義、坂戸直輝(1980). 海図の読み方 蛇社

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