要約

筑波大学教育研究科 渡辺悠希

本研究題目
 原典を用いた場合の数・確率の学習
―カルダノ「サイコロ遊びについて」を題材として―

授業実施時期
 2005年11月

学習指導要領との関連
 中学校2年 「確率」
 高等学校 数学A 「場合の数と確率」
 高等学校 数学B 「統計とコンピュータ」
 高等学校 数学C 「確率分布」「統計処理」

既習事項
 場合の数と確率

指導可能学年
 高校1年生〜

1.はじめに
 本研究では数学史を用いた授業によって、生徒が「場合の数と確率」の分野に興味・関心を持つことと、 統計的確率を授業で扱うことにより、確率の意味について理解を深めることができるか否かを考察した。

2.研究目的・研究方法
研究目的
 カルダノの「サイコロ遊びについて」の原典解釈をすることにより、生徒が「場合の数と確率」の分野に 興味・関心を持つことと、統計的確率を授業で扱うことにより、確率の意味について理解を深めることを目的とする。 ただし「原典」とは、翻訳文献まで含めることとする。
課題1:本授業を通して行われる解釈学的営みによって、「場合の数と確率」の分野に興味・関心を持つことができるか。
課題2:生徒が実際にサイコロを振り統計的確率を求めることにより、数学的確率における「同様に確からしい」という前提に妥当性を感じることができるか。

研究方法
 カルダノの原典「サイコロ遊びについて」などを元にオリジナルな教材を作成し、授業を行う。 授業テキストとビデオによる授業記録、及び事前・事後アンケートを基に考察する。

3.「サイコロ遊びについて」の教材化
  ジロラモ・カルダノ(1501−1576)によって著された「サイコロ遊びについて」は、32章からなる。 この中で確率に関するものは、9章、11〜15章、31章、32章であり、他はゲームの種類、ルールや心構えなどを話題にしている。 今回の授業では11章、12章、14章、31章を扱う。
・11章、12章について
 11章では2個のサイコロ投げ、12章では3個のサイコロ投げが話題にされており、カルダノは場合分けをすることにより出目の総数を求めている。 生徒は、場合の数の積の法則によって出目の総数を求めた後、原典解釈をしながらカルダノの求め方を追体験する。
・14章について
 14章では2個または3個のサイコロを振り、ある特定の目が出たら勝ちというゲームが話題にされている。 生徒は、このゲームの設定で実際にサイコロを振り、統計的確率を求める。また、この章でカルダノは、 「勝つ場合の数:負ける場合の数」として、勝ち目を比で表している。生徒は原典解釈により、カルダノが勝ち目を比で表したことを知る。
・31章について
 31章ではタリ・ゲームという古代の遊びが話題にされている。タリ・ゲームは、タルスと呼ばれる羊の踵の骨を投げることによって行われる。 生徒はカルダノの方法に従って場合の数を求める活動をする。

4.「サイコロ遊びについて」を題材とした授業概要
報告書、テキストなどを参照。

6.議論
課題(1)について
 事後アンケートの結果から「昔から様々な人々が研究してきたようですが、その人達もさぞかし苦労しただろうと思います。 しかし、現在では至る所で確率が使われているのでその研究はすばらしいものだと思います」や「今、時分たちがやっている求め方と、 昔の人の求め方の順序が違うのに驚いた」などの意見が得られた。これにより、場合の数・確率の分野に興味・関心を持つことができたと考えられる。

課題(2)について
 事後アンケートの結果から「今まで単に計算で出してきた確率も実際に調べてみることで、より理解が深まった」や 「サイコロ投げの確率が今回、実際に試行を行ってみた結果、ある程度確からしいということがわかった。 やはりそういう点では数学はすごい学問だなと感心せざるをえなかった」などの意見が得られた。これにより、生徒が実際にサイコロを振り統計的確率を求めることにより、数学的確率における「同様に確からしい」という前提に妥当性を感じることができたと考えられる。

参考文献
・アイザック・トドハンター (1975,安藤洋美[訳]). 確率論史:パスカルからラプラスの時代までの数学史の一断面. 現代数学社.
・礒田正美(2002). 解釈学からみた数学的活動論の展開:人間の営みを構想する数学教育学へのパースぺクティブ.筑波数学教育研究,21,筑波大学数学教育研究室.
・Gerolamo Cardano(1961、Oystein Ore[訳]). The book on games of chance. Holt , Rinehart and Winston.

数学史教材の展示室| 数学の歴史博物館| この教材のトップへ