要約

筑波大学教育研究科 中村信介

本研究題目
 科学系博物館における「投影と相似」の演示に関する研究
―光と影のひみつをさぐる―

活動実施時期
 2005年11月

学習指導要領との関連
 小学校1年 「ものの個数、長さの比較、身近な立体、加法」
 小学校2年 「乗法、四角形」
 小学校3年 「基本的な図形についての理解」
 小学校4年 「伴って変わる2つの数量について、面積」
 小学校5年 「平行四辺形、台形、ひし形、数量の関係」
 小学校6年 「倍数、比、比例」
 中学校1年 「四角錐、比例、文字式」
 中学校2年 「文字式の利用、一次関数」
 中学校3年 「相似、三角形の相似条件、平行線と線分の比」
 高等学校 数学基礎「数学と人間の活動」
 高等学校 数学T「面積比、体積比、三角比」
 高等学校 数学U「図形と方程式」
 高等学校 数学B「空間図形とベクトル」

既習事項
 参加者によって異なる。

指導可能学年
 幼稚園児〜
1.はじめに
 本研究では、国立科学博物館での体験教室において「光と影のひみつ」と題し、主に投影と相似の内容の体験を提案した。そして、この活動を通し、参加者に楽しんでもらうことで算数に対する興味・関心を高め、その上で将来学ぶ算数・数学につながるかを検証した。

2.研究目的・研究方法

研究目的
 国立科学博物館における体験教室において、「光と影のひみつ」の活動を通して子どもたちが将来学ぶ算数・数学につながるか。
課題1:光と影を使った活動を通して、相似の仕組みを参加者の各発達段階に応じて理解できるか。
課題2:箱庭に関する活動において、図形を投影することを参加者の各発達段階に応じて理解できるか。
課題3:活動全体を通して参加者が楽しめるか。

研究方法
 国立科学博物館で、全年齢者を対象に、「光と影のひみつ」と題し、30分の体験教室を開く。そして、その様子を録画したビデオを分析し、そこに記録された参加者の発言や行動の反応から、上記で設定した課題を考察する。その考察から、上記の研究目的が達成されたかどうかを検証する。

3.「光と影のひみつ」の教材の説明
 体験教室において、第1の活動は箱庭を組み立てる活動である。
 第2の活動は光と影を使った活動である。ここではOHPシートに描かれた正方形をスクリーンに投影し、2倍の大きさの正方形に拡大する。
 第3の活動はOHPシートを四角錐が描かれているOHPシートに交換し、第1の活動を振り返る。

4.「光と影のひみつ」の教材化
 第2の活動のもつ算数・数学には「相似」がある。相似は中学校3年生で学習する内容であるが、相似が未習である小学生でも学べる内容がある。
 箱庭に関する第1と第3の活動には「投影」があるが、現在の学習指導要領(1999)では学習しない。しかし、水谷(2002)の言うように「投影図は空間図形を見る1つの視点を与えてくれる。この視点は、今後、空間図形を扱う場面において問題解決の有力な手段となり得る。」と指摘し、「2次元と3次元を相互に推察する能力、すなわち平面図形と空間図形を結びつける力は生徒が将来最も必要とする力のひとつであると考える」と述べていることからも、投影は空間図形に対して理解を深めるための重要な学習となり得ると考える。

5.「光と影のひみつ」の教材の仕組み
(1)箱庭の原理
報告書を参照。
(2)正方形を拡大する活動についての数学的説明
報告書を参照。

6.「光と影のひみつ」の活動概要
報告書を参照。

7.考察
課題(1)について
 ビデオの分析から、参加者の各発達段階によって発言や行動に違いはあったが、各発達段階に応じてスクリーンを動かしてOHPシートの正方形を2倍に拡大することの仕組みを理解できたことが分かる。

課題(2)について
 第3の活動のとき、光源の位置からなぞった影をのぞいて「見えた」「重なった」「さっき(箱庭)のと同じだ」というと発言していた。このことから子どもの発達段階に関わらず、第1の活動と第3の活動が結びついたと言える。

課題(3)について
 アンケートから、「何倍とか、箱を作って、穴を見たのが楽しかった。」(1年生)、「影がおもしろかった。」(2年生)、「(箱庭で)四角錐に見えて不思議に思った。比例がよく分かった。」(4年生)、「影の形が、映しているものと違う形になるのがおもしろかったです。」(5年生)などから、楽しんでもらえたことが伺える。そこに学年化の偏りは見られない。

参考文献
・文部省(1999).小学校学習指導要領解説 算数編. 東洋館出版社
・文部省(1999).中学校学習指導要領解説 数学編. 大阪書籍
・文部科学省(1999).高等学校学習指導要領 数学編、理数編. 実況出版
・小川義和(2003).科学教育における対話と連携の推進―サイエンスコ・ミュニケーション―. 日本科学教育学会年間論文集27 pp.125-126
・大西直(2004).身近な自称の数学化についての授業研究―透視図法とアナモルフォーズ画法を用いて―. 中学校・高等学校数学科教育課程開発に関する研究(11) 「確かな学力」の育成と道具を用いた数学教育. 筑波大学数学教育学研究室 pp111-122
・礒田正美,福田匡弘(2003).画家の視点から生まれた数学の世界(1)〜(2). 教育科学 数学教育 7,8月号 明治図書
・水谷尚人(2002).空間図形の学習における「記述すること」とコミュニケーションの役割に関する研究. 日本数学教育学会誌第84巻第7号 pp2-9

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