要約

筑波大学教育研究科 江山静海

本研究題目
 科学系博物館における「ピタゴラス音律」の演示に関する研究
―ストロー笛の製作を通して―

授業実施日
 2005年11月19日

学習指導要領との関連
 小学校1、2、3年 「数と計算」「量と測定」「図形」
 小学校4、5、6年 「数と計算」「数量関係」
 中学校1年 「数と式」「数量関係」
 中学校2年 「数と式」「図形」「数量関係」
 中学校3年 「図形」
 高等学校 数学基礎 「数学と人間の活動」「社会生活における数理的な考察」
 高等学校 数学T 「方程式と不等式」
 高等学校 数学U 「いろいろな関数」
 高等学校 数学V 「極限」
 高等学校 数学B  「数列」

主な対象学年
 小学校3年生〜

1.はじめに
 本研究では、国立科学博物館においての単発的な体験活動で、ストロー笛を製作することを通し、日常を数理的に見る眼を育むきっかけを作れるかどうか検証した。

2.研究目的・研究方法

研究目的
 本研究では、楽器作りを通して、音楽史の中で算数・数学が活かされてきた事実を体験し、楽器という日常から算数・数学を見いだすことで、日常を数理的に見る眼を育むきっかけを作ることを目的とする。
目的を達成するために、以下の課題を設定する。
課題1:ピタゴラス音律を用いたストロー笛を扱う中で、そこに隠れた算数・数学を見いだすことができるか。
課題2:ストロー笛を作る単発的な体験活動を、他の日常とリンクさせ事象を数理的に見ることができるか。

研究方法
 国立科学博物館における単発的な体験学習の講座である「たんけん教室」にて、「ドレミの秘密」と題した、ストローを用いて笛を製作する体験活動を行う。体験者の様子、事後アンケート、ビデオによる活動記録を基に考察する。

3.「ピタゴラス音律」の教材化
 ピタゴラスが活躍していた時代、エジプトには様々な楽器があったが、音程と比率の関係は耳によってのみ確かめられ、法則を発見するまでには至ってなかった。ピタゴラスらはモノコードと呼ばれる一弦琴を2台並べて音高を変えながら互いの弦長を比較することで、調和する音の関係について数的な秩序を導入しようとした。この実験により、2台のモノコードの弦長比を1:2にすると、うなりのない「純正8度」(オクターブ)が生じ、2:3の比にするとうなりのない「純正5度」の響きが生じることを確かめた。この純正5度の堆積の繰り返しによって得られる12個の音から構成されるのがピタゴラス音律である。
 「ピタゴラス音律」を教材化した理由は以下である。
・博物館の来館者に短時間でインパクトを与えると感じたこと。
・楽器が子どもの日常に多く見られる教材であること。
・ピタゴラス音律の作り方が、子どもたちが自分で作ることができるほど簡単な数学のアイデアであったこと。

4.ストロー笛の作り方
報告書を参照。

5.「ドレミのひみつ」の活動概要
報告書、事後アンケートなどを参照。

6.議論
課題1について
 事後アンケートから、「ひくいドのはんぶんがたかいド。」、「ストローが長いと高い音がでることがわかりました。」などの意見が得られた。体験者のほぼ全員が、事後アンケートにストローの長さと音に関することを書いていることから、ストロー笛の中に隠れた何らかの算数・数学的事象を見いだすことができ、課題1は達成されたと考えられる。

課題2について
 活動後に、ピアノや木琴についての意見があった。また、事後アンケートには「ピアノににているところがありました。」という意見があった。これらから体験者の一部はストロー笛作りの体験を、日常生活の中のピアノやその他の楽器について考えるヒントとしていると考えられる。他にも、「どうしておとがなるのかふしぎ」や「このふえには、ある、しくみがあること。」、「長さがちがうだけでおとがかわるのはふしぎ。」といった科学的な眼でストロー笛を見る体験者の意見が目立った。これらのことから、一部の体験者には、この単発的な体験活動を通して日常を数理的・科学的に見る眼をはぐくむきっかけが作れたのではないかと考えられる。

参考文献
・竹井成美(1997). 教育視点による平均律・五線譜・ドレミ誕生の歴史 音楽を見る!. 音楽之友社.
・小川義和・下条隆嗣(2004). 科学系博物館の学習資源と学習活動における態度変容との関連性. 科学教育研究28(3). p.158-165. 日本科学教育学会.
・礒田正美・原田耕平(2003). 絵をみてできる数学実験. 講談社.

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