要約

筑波大学教育研究科 今村幸永

研究題目
道具と数学史を用いた解釈学的営みとしての授業研究−レンズを題材とした円錐曲線の教材開発−

1.はじめに
 学校では数学を学習する価値を生徒が見出せていないということが考えられる。そこで、道具と数学史原典を利用し活用していくことで生徒の数学観の変容を議論をしていく。

2.
研究目的・研究方法

・研究目的
 円錐曲線に関するデカルトの屈折光学(数学史原典)を解釈する授業および、古典的な道具(カメラオブスキュラ、レンズ製作機)を生徒が用いる授業を行い追体験をすることで、道具の持つ役割・歴史的価値を自ら考え、その有用性を通して数学観の変容を考察する。
・研究方法
 以下の下位課題を設定し、ビデオ及び生徒へのアンケートを基にこの下位課題が達成されたかどうかを判断する。
@    生徒は、目の構造やレンズという身の回りのものを用いて学習していくことにより、数学がさまざまなところに存在し、いろいろなものに発展できることを感じ取れるか。
A    生徒は、@をとおして、数学史の原典解釈を行うことで、数学に対する新しいものの見方・考え方ができるようになるか。
B    生徒は、@、Aを通して、道具を自分自身で取り扱うことで追体験を行い、道具が数学に必要なものであることを感じ、数学への興味・関心を引き出すことができ、その変容がうかがえるか。

3.
円錐曲線の教材化

  円錐の切断から生じる円錐曲線をデカルトの屈折光学を原典として教材化を行った。はじめに、身の回りに数学が存在することを示すために目の構造とレンズについてのテキストを開発した。カメラオブスキュラを作成し、実際に目の構造とレンズの役割、目の中にできる円錐について学習した。
そして、光の屈折の原理(屈折率は一定)、レンズに適する曲線(特に楕円)について学習した。

 次に、楕円の性質である「長軸に平行に入射する光は、遠いほうの焦点を通る、長軸に平行に入射する光の屈折率は一定である」を
Cabri GeometryUと原典解釈を通して証明を行ってもらった。これを行うことにより、生徒は、なぜ楕円、双曲線がレンズに適しているのかや、昔の人の考えを自分なりに試行錯誤して考えることができ数学史の重要性を認識できると判断し、追体験を行ってもらった。

 最後に、実際に円錐の切断を行ってもらうためにカメラオブスキュラのスクリーンを改良して(報告書参照)追体験を行ってもらった。
そして、実際に字自分で描く楕円・双曲線にはゆがみが存在し、レンズはうまく作れないという経験から、デカルトが製作したレンズ製作機の重要性とすばらしさを感じてもらった。
 これらの授業を通して生徒は道具と数学史の重要性を認識し、数学の創造的な側面を感得できると考える。

4.円錐曲線の授業概要
 報告書、スライド、テキスト等を参照

5.結果と考察
 本研究では、生徒の数学観を変容させるために、数学史原典の内容を教材化し学習すること、古典的な道具を操作し観察したりすることに注目した。下位課題@〜Bの考察の結果として、課題は達成されたと考えられる。詳しくは報告書を参照してください。よって、生徒は道具の持つ役割・歴史的価値を自ら考えることができ、数学観の変容が見られたと考えることができる。

6.参考文献
礒田正美(2002)解釈学から見た数学的活動の展開―人間の営みを構想する数学教育学へのパースペクティブ―.筑波数学教育研究第21.pp.110

                 

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